Zedとは何か・フォークせずゼロから作られたエディタという選択
Cursorの記事で、VS Codeをフォークして作られたAIネイティブエディタという成り立ちを見てきました。同じく「AIネイティブなエディタ」として名前が挙がるZedも、てっきり同じようにどこかのエディタをフォークして作られたのだろうと思うかもしれませんが、出自はまったく別です。Zedは既存のエディタを土台にせず、ゼロから書き直された独立したエディタで、しかも作った人たちには苦い前史があります。
Atomの反省から、Rustで速度を優先してゼロから書き直された
新しいエディタを一から作るとなれば、既存の枯れた技術を土台に使うのが普通だろうと思うかもしれませんが、Zedの創業者Nathan Sobo氏はその逆の判断をしました。Sobo氏はGitHubの人気エディタ「Atom」の共同開発者で、Atomの開発を2018年まで率いていた人物です。AtomはElectron(Webの技術でデスクトップアプリを作る仕組み)で作られていましたが、この技術的な土台そのものが処理速度の天井になり、Atom時代に十分な速さを実現できなかった経験がありました。この反省から、Zedでは既存の技術に頼らず、Rust言語と自社開発のGPUレンダリングの仕組み(GPUI)でエディタをゼロから書き直しています。
# 起動速度のイメージ(公表されている数値をもとにした比較)
$ time code . # Electronベースのエディタの起動(イメージ)
real 0m1.8s
$ time zed . # Zed(Rust + GPUI)の起動
real 0m0.12s # 冷たい状態からの起動でも1秒未満
ハクスラゲームでたとえると、以前建てた拠点(Atom)の土台の設計そのものに手狭さの限界があり、後からどれだけ内装を工夫しても快適さの天井を超えられなかった経験があるイメージです。Zedはその反省を踏まえて、同じ土台を使い回すのではなく更地から新しい拠点を建て直しました。フォークして既存の建物を改装するCursorとは違い、Zedは基礎工事からやり直しているため、土台そのものの性能(起動速度・描画の滑らかさ)で差が出ています。
特定のAIベンダーに縛られない「ACP」という接続方式
AIネイティブなエディタというと、Cursorの独自モデル(Fusion・Composer)のように、専用のAIモデルとセットで作られているものだと思うかもしれませんが、Zedは逆の設計思想を取っています。Zedは2026年1月にJetBrainsと共同でAgent Client Protocol(ACP)というオープンな規格を策定しました。この規格に対応してさえいれば、Claude・GPT・Geminiのようなクラウド側のモデルはもちろん、Ollamaで動かすローカルモデルや、Claude Code・Codexのような外部のCLIエージェントまで、同じ仕組みでZedに接続できます。つまりZed自身は特定のAIベンダーの専用モデルを抱え込まず、利用者がどのAIを使うかを選べる「土台」に徹する設計です。
# ACPによる接続のイメージ(実際の設定項目はバージョンにより変わる)
Zedのエージェントパネル
├── 接続先1: Anthropicのモデル(クラウド)
├── 接続先2: Ollamaのローカルモデル(手元のマシン)
└── 接続先3: 外部CLIエージェント(Claude Code / Codexなど)
# どの接続先も同じACPという規格でつながるため、
# エディタ側のコードを変えずに接続先だけ差し替えられる
多くのゲーム機メーカーは、周辺機器の接続端子を非公開の独自仕様のままにして、他社製パーツを締め出します。ACPはそれとは逆の発想です。Zedという1社が仕様を独り占めするのではなく、JetBrainsという別の大手メーカーとすり合わせて仕様を固め、外部に公開した共通端子にしています。この端子の規格にさえ対応していれば、Claudeというメーカーの部品も、GPTというメーカーの部品も、自分で組み上げたOllamaのローカル部品も、同じ端子に差し込めます。Zedは自社専用の部品を売り込む立場ではなく、この共通端子を運営する立場に徹しています。
よくあるはまりポイント:「軽くて速い」という評判のまま、AI機能の料金プランを見落とす
Zedは「軽くて速いエディタ」という評判が先に広まっているため、AI機能もおまけ程度で全部無料だろうと思うかもしれませんが、実際にはAI機能の利用には段階的な料金プランが用意されています。無料のPersonalプランでは編集予測(Edit Prediction)が月2,000件までという上限があり、それを超えると予測が止まります。月10ドルのProプランなら編集予測は無制限になり、5ドル分のトークンが含まれていますが、それを超えた分は追加で課金されます。「軽いエディタだから何でも無料で使えるはず」という思い込みのまま自分のAPIキーを設定せずに使い続けると、月の途中で無料枠を使い切り、急に編集予測が反応しなくなって戸惑うことになります。
- GPUI
- ZedがRustで自社開発した、GPUを使った独自の描画フレームワーク。120fpsでの描画や0.12秒の起動時間を支えている
- ACP(Agent Client Protocol)
- 2026年1月にZedとJetBrainsが共同で策定したオープンな規格。特定のAIベンダーに縛られず、様々なモデル・エージェントを同じ仕組みでエディタに接続できる
- Edit Prediction
- 入力中のコードの続きを予測する、Zedのインライン補完機能。無料のPersonalプランには月間の利用件数上限がある
Personalプランの無料枠(月2,000件)は、自分のAPIキーを接続していない場合の上限です。すでにAnthropicやOpenAIのAPIキーを持っているなら、Zedの設定で自分のキーを繋いでおくことで、Zed側の無料枠の件数制限を気にせず使えます。月の途中で編集予測が急に反応しなくなって戸惑う前に、キーを繋いでおく習慣をつけておくと安心です。
フォークではなくゼロから作るという選択が掴めたら、他のAIコーディングツールとも見比べてみると理解が深まります。(シリーズ一覧・GitHub Copilot・Cursor・Ollama・OpenAI API・Hugging Face・LangChain・Anthropic API・Devin・Gemini CLI)